少なくとも私は高校時代に悩まされた問題である。調べても出てこないし、出るのは5次方程式以上の代数的解法が存在しないということくらいである。そこで当時の私は独自に解釈して自分を納得させようと試みた。ここでは私の解釈がどういうものなのか紹介していきたいと思う。
整数次方程式の解の解釈
方程式とは未知数な変数を幾つか含む式のことを言う。ここでは特に制限が無ければ $z$ についての方程式は1変数の複素方程式とし、 $x$ についての方程式は1変数の実方程式とする。例えば2次方程式
$$\begin{cases}
x^2+1=0\\
z^2+1=0
\end{cases} \tag{1}$$
が与えられていた場合には、実数解が無いため上の $x$ についての方程式の方は解無しとなるが、下の $z$ についての方程式の方は解が存在する。
虚数単位 $i$ とは何か
これも本当に多い誤解であるがやはり間違えられて伝えられる。ただしこれを理解するには「イデアルの根基」を知る必要がある。これは当然数論の内容になるため、大学数学のそれも数学科が好む代数学の内容に片足を突っ込むことになる。ここではなぜ数論の教科書にはよく虚数単位を $i$ と書かず頑なに $\sqrt{-1}$ と書く理由を伝えていきたい。
まず
$$x^2=9 \tag{2}$$
の解は $x=±3$ となる。これは
$$f:x^2→x (ただしx^2(∈ℝ^+)→x(∈ℝ(=\{ℝ^+,ℝ^-\}))) \tag{3}$$
という写像をしている。ここで $ℝ$ は直和 $ℝ^+\bigoplusℝ^-$ となる。具体的に
$$9→\{3,-3\} \tag{4}$$
となる。$√$ はこの集合 $\{ℝ^+,ℝ^-\}$ のうちの片方を選択しているだけに過ぎない。
$√$ で表現すると
$$x=\{\sqrt{9},-\sqrt{9}\} \tag{5}$$
となる。そのため $\sqrt{9}=3$ としようが $\sqrt{9}=-3$ としようが、得られる集合 $\{3,-3\}$ には変わりはない。後者の場合には $\sqrt{9}$ が負の平方根になる。ただし一般的には $\sqrt{9}$ を正の平方根として定めることが殆どなので、あまり気にしなくて良い問題ではある。
これを $x^2(∈ℝ^-)$ に拡張すると、
$$f:x^2(∈ℝ^-)→x(∈ℂ(=\{ℂ^+,ℂ^-\})) \tag{6}$$
と形式的に書ける。ただしここでは $ℂ^+$ を純虚数のうち正の位相の集合とし、 $ℂ^-$ をそれらの共役複素数の集合とした。例えば(6)式を満たす $x(\{ℂ^+,ℂ^-\})$ を $\{i,-i\}$ と置けば、
$$x^2=-9 \tag{7}$$
の解は $x=±3i$ となる。 $√$ で表現すると、
$$x=\{\sqrt{9}\sqrt{-1},-\sqrt{9}\sqrt{-1}\} \tag{8}$$
となる。こちらもやはり先の例と同様に $i=\sqrt{-1}$ であろうが $i=-\sqrt{-1}$ であろうが得られる集合 $\{3i,-3i\}$ には変わりない。言い換えれば虚数単位 $i$ に対して $\sqrt{-1}$ か $-\sqrt{-1}$ のどちらかなのか区別することはできないということだ。つまり $\sqrt{負の数}$ という表現に限界があると言える。例えるなら無理数を有理数で表そうとしているのである。
よって虚数単位 $i$ を正しく定義するのなら
zについての2次方程式
$$z^2=-1$$
について
$$i^2=-1$$
を満たすような数 $i$ のことを虚数単位と言う。
となる。 $±$ の違いはどちら側を虚数単位に取るかというだけの違いである。更に $±$ を選択したい場合にはそのことを明言する必要がある。
数論でよくあるのはこの虚数単位 $i$ が $±\sqrt{-1}$ のどちらかになり得るという不確定性を排除したいという理由からだと考えられる(詳しくは有識者に聞いてほしい)。 $-$ が付いていると、奇数乗のときには付いたままで、偶数乗のときには消えるから厄介なのである。
整数次方程式の解の個数
整数次方程式の解の個数を調べてみる。
$i)$ 2次方程式の場合
$z$ についての方程式
$$z^2-1=0$$
の解は
$$z=±1$$
$$ ∴ z=e^{0i},e^{iπ}$$
の2つ存在する。
$ii)$ 3次方程式の場合
$z$ についての方程式
$$z^3-1=0$$
を解くと
$$(z-1)(z^2+z+1)=0$$
$$∴ z=1, \frac{-1±\sqrt{3}i}{2}$$
$$∴ z=e^{0i},e^{±\frac{2π}{3}i}$$
となり、3つ解が存在する。
これらはつまりn (>0)次方程式の解はn個存在することを意味する。
では負の整数の場合はどうか。
$iii)$ -2次方程式の場合
$z$ についての方程式
$$z^{-2}-1=0$$
を解くと
$$(z^{-1})^2-1=0$$
$$∴ z^{-1}=e^{0i},e^{iπ}$$
$$∴ z=e^{0i},e^{-iπ} (複合同順)$$
となり解が2つ存在する。
$iv)$ -3次方程式の場合
$z$ についての方程式
$$z^{-3}-1=0$$
を解くと
$$(z^{-1})^3-1=0$$
$$(z^{-1}-1)\{(z^{-1})^2+z^{-1}+1\}=0$$
$$∴ z^{-1}=e^{0i},e^{±\frac{2π}{3}i}$$
$$∴ z=e^{0i}, e^{∓\frac{2π}{3}i} (複合同順)$$
となり、解が3つ存在する。
これらはつまり
$$x^{-n}x^n=x^0=1$$
のように表されるから $-n (<0)$ 次方程式の解は $n$ 個存在すると言える。ただし $n$ 次方程式の解の導出される順番と逆向きになることに注意されたい。ここでは分かりやすく $-n (<0)$ 個存在すると解釈する。
非整数次方程式の解の個数
非整数方程式の場合も同様に $1/n$ 次方程式の解が $1/n$ 個存在すると考えてみる。するとおやどこかで見たことのある式だ。そう物理学の力学の単振動で現れる、角振動数 $ω$ と周期 $T$ の関係
$$ω=\frac{2π}{T} \tag{9}$$
である。ここでは1周期における $n$ 次方程式の解の個数が振動数に該当する。周期とは複素数の多価性によるものである。かのオイラーの世界一有名な公式
$$e^{iθ}=\cosθ+i\sinθ \tag{10}$$
にもある通り任意の複素数を位相を用いて表現することができる。右辺にある通り三角関数による多価性が存在するため今まで解いてきた方程式 $i)\sim iv)$ にも実は周期性が存在する。三角関数は通常 $2π$ の周期となっていて、位相 $θ$ の $1/n$ 倍の $\frac{θ}{n}$ は $\frac{2π}{n}$ 周期となることから $n$ 次方程式の解における周期は $\frac{2π}{n}$ である。つまりn次方程式の解は1周期辺り $n$ 回振動していると捉えてみても良いのかもしれない。
$v)$ 3/2次方程式の場合
先述の考察から3/2次方程式の周期は $\frac{4π}{3}$ となるから、求める解 $z$ は
$$z=e^{0i},e^{\frac{4π}{3} i},e^{\frac{8π}{3} i},e^{4πi},\cdots$$
となり、確かに2回転ごとに3回だけ振動していることが分かる。即ち角振動数は $ω=\frac{3}{2}$ である。これは先述の考察通りである。
例題
$z$ についての方程式
$$\sqrt{z}=z^2 \tag{11}$$
を解け。
という問題の解法を訊かれたことがある。
よくある解答は単に両辺を2乗して
$$z=z^4 \tag{12}$$
を解くというものであるが、これは先述の考察から解の周期が $1/2$ 倍になることを考慮しなければならない。できれば累乗をするという作業は極力したくない。
そこで方程式(11)を $\left(z^\frac{1}{2}\right)$ についての方程式として解いてみる。
$$\left(z^\frac{1}{2}\right)=\left(z^\frac{1}{2}\right)^4$$
$$∴ \left(z^\frac{1}{2}\right) \left\{\left(z^\frac{1}{2}\right)^3-1\right\}=0$$
$$∴ z^\frac{1}{2}=0, \left(z^\frac{1}{z}\right)^3=1$$
$$∴ z^\frac{1}{2}=0, z^\frac{3}{2}=1 \tag{13}$$
(13)式から方程式(11)は解の周期 $4π$ の $z=0$ と解の周期 $4π/3$ の $z=1$ を解に持つ。
言い換えれば $z=0$ について $1/2$ 回だけ解が振動し、 $z=1$ について $3/2$ 回だけ解が振動する。
よって求める解 $z$ は
$$∴ z= \begin{cases}
0e^{0i}, 0e^{4πi},\cdots\\
e^{0i}, e^{\frac{4π}{3} i}, e^{\frac{8π}{3} i}, e^{4πi},\cdots
\end{cases}$$
$$∴ z=0, 1, \frac{-1±\sqrt{3}i}{2} \tag{14}$$
となる。
終わりに
今回は非整数次方程式の解を独自に解釈してみた。そこでは複素数の多価性を利用して角振動数や周期の考え方を取り入れたものである。今ここで改めて本記事を書き綴った私としては至極当たり前のことを書いているという印象を抱いているのだが、どうも当時の私は複素数平面を使うことと、三角関数の周期性から多価関数であるということくらいしか分からず、ただ問題を解いていたのだと思う。
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