物理学相対性理論電磁気学

電磁気学から特殊相対性理論の形へ

電磁気学

本記事はシリーズ「マクスウェル方程式で解析する電磁気学」の第5部となっています。前回まで電磁ポテンシャルを用いてマクスウェル方程式を表現してきました。本記事ではマクスウェル方程式を特殊相対論で使用されるようなもっと簡潔な形式を解説していきます。

初めに

前回まではマクスウェル方程式に電磁ポテンシャルを用いることで電磁気学の諸原理を解釈してきました。本記事ではそこから更に特殊相対性理論への導入をしていきます。といってもマクスウェル方程式を共変定式で表現する程度で、そこまで難しいことはしません。電磁気学のマクスウェル方程式から自然な形で特殊相対性理論での議論に誘導することができるということを伝えたかっただけです。

相対論的電磁気学において、マクスウェル方程式は4元ポテンシャル $A^{\mu}$ と4元電流密度 $j^{\mu}$ を用いて、簡潔に1つの式で表すことができます。ローレンツ条件は異なる慣性系での電磁波の伝搬速度が常に一定であることを保証し、特殊相対性理論ではローレンツ不変性により電磁波の伝搬速度が光速度であることが自然に導かれます。ダランベルシアン $\Box$ の定義は文献によって異なりますが、本記事では時間的規約に則って定義されています。

相対論的電磁気学から見たマクスウェル方程式

特殊相対性理論では4元ポテンシャル $A^μ$ と4元電流密度 $j^μ$ を用いる。本記事ではダランベルシアン $\Box$ を

$$\Box:=\dfrac{1}{c^2}\dfrac{∂^2}{∂t^2}-\Delta$$

の下で、電磁ポテンシャルを用いたマクスウェル方程式

$$\begin{cases}
\left(\dfrac{1}{c^2}\dfrac{∂^2}{∂t^2}-\Delta\right)\phi=\dfrac{ρ}{ε_0}\\
\left(\dfrac{1}{c^2}\dfrac{∂^2}{∂t^2}-\Delta\right)\boldsymbol{A}=μ_0\boldsymbol{j}
\end{cases} \tag{19}$$

$$\begin{cases}
\Box\phi=\dfrac{ρ}{ε_0}\\
\Box\boldsymbol{A}=μ_0\boldsymbol{j}
\end{cases} \tag{19′}$$

$$\begin{cases}
A^μ=\left(\dfrac{\phi}{c},\boldsymbol{A}\right)\\
j^μ=\left(cρ,\boldsymbol{j}\right)
\end{cases}$$

と置く(ただし $\dfrac{1}{c^2}=ε_0μ_0$)ことで、簡潔に1つの式

$$\Box A^μ=μ_0j^μ \tag{19″}$$

で表し電磁場を4次元(3次元空間と時間)で議論することがよくある。

またローレンツ条件

$$\nabla\cdot\boldsymbol{A}+ε_0μ_0\dfrac{∂\phi}{∂t}=0 \tag{18}$$

も4元ポテンシャルを用いることで

$$∂_νA^ν=0 \tag{18′}$$

と簡潔に表される。ただし

$$∂_μ:=\left(\dfrac{1}{c}\dfrac{∂}{∂t},\nabla\right) \tag{27}$$

とする。

また4元電流密度に作用させた

$$∂_μj^μ=0$$

は電荷保存則

$$\dfrac{∂ρ}{∂t}+\nabla\cdot\boldsymbol{j}=0$$

であることも分かる。

電磁気学の場の方程式を詳しく見てみる

以上のように4元ベクトル、4元ポテンシャルを用いて、ローレンツ条件を当てめる前のマクスウェル方程式は

$$\Box A^μ+∂^μ(∂_νA^ν)=μ_0j^μ \tag{28}$$

と書き表される。この式はマクスウェル方程式を共変定式で表現しているのだ。

しかし(28)式はマクスウェル方程式を完全に内包しているものの、観測する慣性系によって状況が変わってしまう。そのため途中のローレンツ条件

$$∂_νA^ν=0 \tag{18′}$$

は、ローレンツ変換が物理法則に適用されるために必要な条件なのである。ローレンツ条件は異なる慣性系での電磁波の伝搬速度が常に一定であることを保証する。これにより特殊相対性理論では電磁波の伝搬速度が光速度であることが自然に導かれるのだ。

つまり暗に読者に強要していた

$$\dfrac{1}{c^2}=ε_0μ_0$$

という電磁波が光速であるという事実は、特殊相対性理論ではローレンツゲージによって任意の慣性系において物理法則が同じ形で表現されるために必要な基礎的な概念(ローレンツ不変性)の一つなのである。

このように電磁気学の根本であるマクスウェル方程式を4次元(3次元空間と時間)で議論することができるのだ。

ダランベルシアン $\Box$ の定義の再確認

ところでダランベルシアン $\Box$ の定義について本記事では

$$\Box:=\dfrac{1}{c^2}\dfrac{∂^2}{∂t^2}-\Delta$$

と定義したが、文献によっては

$$\Box=\Delta-\dfrac{1}{c^2}\dfrac{∂^2}{∂t^2}$$

となっているところもある。これはミンコフスキー計量 $η_{μν}$ を

$$η_{μν}:=\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 & 0\\
0 & -1 & 0 & 0\\
0 & 0 & -1 & 0\\
0 & 0 & 0 & -1
\end{pmatrix}$$

と定義するか、或いは

$$η_{μν}:=\begin{pmatrix}
-1 & 0 & 0 & 0\\
0 & 1 & 0 & 0\\
0 & 0 & 1 & 0\\
0 & 0 & 0 & 1
\end{pmatrix}$$

と定義するかの違いである。ただし本記事では世界距離の考え方を時間的規約

$$s^2=(ct)^2-(x^2+y^2+z^2)=(ct’)^2-(x’^2+y’^2+z’^2)$$

に則って上の定義を採用していることに注意されたい。符号を入れ替えた方は空間的規約と言う。これは宗派の違いによるものである。

つまりダランベルシアン $\Box$ は4元ベクトルを用いて

$$\Box:=η_{μν}∂^μ∂^ν=∂_μ∂^ν$$

となるのだ。今まで説明を無視してきたが、非相対論的にはベクトルの添え字 $_a^b$ の上下は、混乱するくらいなら単に列ベクトル(下付き)と行ベクトル(上付き)に区別するものという認識でもおおむねね問題ない。しかし相対性理論ではしょっちゅう添え字を反転させたりして抽象的な議論になるので、将来的には使いこなせるようにしておくべきである。

相対性理論における上下付きの添え字 $_a^b$ の意味

相対性理論では下付きの4元ベクトルを共変ベクトルとし、上付きを反変ベクトルとしている。意味合いとしては共変ベクトルは基底の変換と同じ変換を受け、反変ベクトルは基底の変換と逆の変換を受けるというものである。例えば基底 $\boldsymbol{e}=e_i$ を成すベクトル $\boldsymbol{a}$ が

$$\boldsymbol{a}=a^ie_i$$

のようにアインシュタインの縮約記法で表現すれば、ベクトル $\boldsymbol{a}$ の各成分は反変ベクトルとなり、基底 $\boldsymbol{e}$ は共変ベクトルとなる。

計量テンソルの場合は、下付きの $g_{ab}$ を共変テンソルとし、上付きの $g^{ab}$ を反変テンソルとする。このときベクトルのときと同様に共変テンソルは正変換を促し、反変テンソルは逆変換を促す。つまり、本記事においてミンコフスキー計量の反変テンソル $η^{μν}$ は

$$η^{μν}:=\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0 & 0\\
0 & -1 & 0 & 0\\
0 & 0 & -1 & 0\\
0 & 0 & 0 & -1
\end{pmatrix}$$

となる。これにより添え字の上げ下げについて

$$\begin{cases}
A_μ=η_{μν}A^ν\\
A^μ=η^{μν}A_ν
\end{cases}$$

が成り立つ。

終わりに

本シリーズ「マクスウェル方程式で解析する電磁気学」は一旦ここで幕を閉じる。このシリーズを通してマクスウェル方程式を中心に電磁気学について俯瞰してみたが如何であったか。最後の方は特殊相対性理論での議論に自然な形で誘導することができることを紹介した。気が向いたら相対性理論についての記事も書いていくので首を長くして待ってもらいたい。

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