数学複素数平面複素解析学解析学高校数学

複素数平面とベクトルによる複素数の表現

数学 複素数平面
数学

複素数平面という呼び名

「複素数平面とは何か」は「内積とは何か」と並んで多い質問である。しかしこれに満足のいく解説をしてくれるところは乏しい。複素数平面をよく分かっていない人が非常に多く、あまつさえ複素数平面を2次元の実ベクトルのように解説しているサイトもあるくらいである。

この問題は複素数平面以外にも、極座標系と極方程式の関係性やベクトルにも通ずることである。これは高校数学の教科書の構成上初めは定義周辺をしっかりと教えられないことが原因である。分かりやすく教えようとすると先のように間違ったことを言わなければならない。ところで詳しく丁寧に教えようとするとどうしても高校数学の範疇を超えてしまうというジレンマを持つ。そのためこういう疑問を持つということはしっかりと勉強しているという証拠ではあるのだろう。

まずは複素数平面という名前から見ていく。

「複素数平面」これはどういう意味だろうか。名前に複素が付くものと言えば「複素数」、「複素行列」、「複素関数」等々。この「複素」と対の関係になるのは「実」である。それぞれ「実数」、「実行列」、「実関数」である。

では「複素」「数平面」の実数版に対応するものは何だろうか。読者も分かっている通り、複素数平面における点は複素数である。なぜ平面なのかと言えば、それは実部と虚部の2つの情報を図示したかったからである。

そう、実数版とは実部の1つの情報だけを図示すればよい。

もう答えは出ていると思う。その通り実数版は「(実)数直線」である。

つまり実数では「数直線」、複素数では「数平面」とすればしっくりきそうである。現に竹内端三『函数概論』(共立出版)では「複素数平面或イハ略シテ単ニ数平面トイフ」とある。

参考→http://mathsci.blog41.fc2.com/blog-entry-60.html

つまるところ「複素数平面」とは実数で言うところの「数直線」に該当するということを言いたい。これは裏を返せば複素数平面に打たれた点は数であり、それを表現するために平面に図示されているに過ぎないのである。だから大学教授らがよく言う「複素平面」というのがどうも気に入らない。私は彼らに問いたい。貴方は「数直線」を「実直線」や「直線」と言い、「複素数列」を「複素列」というのかと。

「ガウス平面」は分かる。

複素数平面は2次元平面ではない

ここで頭を悩ませる質問を1つ紹介しよう。

「実軸と虚軸によって平面に図示されているということは、複素数は実部と虚部の2成分を持つ2次元のベクトルですか」

というものである。まずこの発言から発言者はベクトルの次元の取り方を理解していないことが分かる。

これを理解するためには、

  • 実ベクトルと複素ベクトル
  • 幾何(空間)ベクトルと数ベクトル
  • 数直線と複素数平面

の各相違点や類似点を知っている必要がある。

実ベクトルと複素ベクトルの違いは、その名の通り成分が実数で閉じているベクトルか成分が複素数にまで拡張したベクトルかの違いである。

幾何(空間)ベクトルとは高校でよくあるような大きさと方向を持つベクトルのことである。2次元であれば平面となり、3次元であれば立体となる。

数ベクトルとは、幾何ベクトルのように図形的性質を無視した量を並べたものである。例えば

$$(身長,体重,出身地,好きな食べ物) \tag{1}$$

のように4つ並べてみた。ここで4つが全て線型独立であれば4次元の数ベクトルとなる。しかし実際には身長と体重が線型従属であり、かつその他について全て線型独立であると仮定すると、(1)は3次元数ベクトルとなる。

また数ベクトルは幾何ベクトルと違い、方向を持たない(若しくは不明な)量となることから、1次元数ベクトル $\boldsymbol{x}=(a)$ とはただの数aを1つだけ並べたものとなる。ここで数直線で表されるベクトルは、正の向きに方向を持つので $\boldsymbol{x}=(a)$ は実1次元幾何ベクトル $\vec{x}=(a)$ となる。

さて複素数で表現される点も同様に数であるからこの点を複素1次数ベクトルで $\boldsymbol{z}=(a)$ のように表される。これも当然複素数平面上に図示する場合には $\vec{z}=(a)$ となり、やはり1次元幾何ベクトルとなる。教科書等で複素数平面上の点を $\boldsymbol{z}=(a)$ と書いているのはそのためである。是非もう一度見返してみては如何だろうか。

以上から

複素数は実数と同じく数に分類されることからこれらは同程度に扱われなければならない。

ここで単に数は図形的な性質を持たないことから、数は1次元の数ベクトルで表される。このことから複素数は複素1次数ベクトルで表される。

数直線や数平面上で表現する場合には、いずれも原点からの距離の方向を正の向きとするようなベクトルとなる。つまり前者は実1次元幾何ベクトル、後者は複素1次元幾何ベクトルとなる。

だからまあ複素数だけ特別に2次元ベクトルとするのは意味不明である。1とiを基底?として、それぞれ実部と虚部の2成分あるという主張なのだろうか。ちょっと何言ってるのかよく分からないです。

複素数平面と複素1次ベクトル

これまでに複素数平面は複素数の実部と虚部を取り出して図示したものであると述べてきた。そのため複素数における計算がどのように複素数平面で作用されるのかを視覚的に捉えることが可能になった。また例えば複素関数の積分では特異点付近の計算を可視化できるというように、計算方法が豊かになった。

しかしその便利さが故に、例えば行列を学ばなくても複素数平面上の点を回転させることで2次元平面の回転移動を簡単にこなせてしまう。そう、理解よりも先に計算方法を知ってしまうのである。

これが私が散々述べている通り、複素数、複素数平面、ベクトルの関係が分かっていない人が排出されてしまう主たる原因である。私の経験上これを訊いてくるのは高校生で、数学科、物理学科以外の例えば工学系や電子系の学科出身の人は複素数平面を2次元のベクトルと答える人が多いという。本記事のような内容は他のどのサイトでは見ない内容なので、高校、大学の授業では多分触れないことで、自分で考えなければ分からない内容なのであろう。

複素数平面に代えて複素数を複素1次元数ベクトルとして考える方法がある。これは複素数平面とは違い、図形的性質を意識せずただベクトル解析や線型代数として扱うというものである。特にこれにメリットは見えにくいが、ただ何も考えずに解析的に扱うことができる。

高校数学では複素数平面の公式や条件式の多くは複素ベクトルの内積

$$\langle\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\rangle \tag{2}$$

から出発する。

例えば複素数 $\boldsymbol{z}$ の大きさ $|\boldsymbol{z}|^2$ は

$$\langle\boldsymbol{z},\boldsymbol{z}\rangle=\boldsymbol{z}^*\cdot\boldsymbol{z}=|\boldsymbol{z}|^2 \tag{3}$$

となる。ここで$\boldsymbol{z}^*$を列ベクトル$\boldsymbol{z}$の複素共役転置行列(随伴行列)とした。

また問題文の条件式によくある

$$\langle\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\rangle+\langle\boldsymbol{b},\boldsymbol{a}\rangle=0 \tag{4}$$

$$\langle\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\rangle-\langle\boldsymbol{b},\boldsymbol{a}\rangle=0 \tag{5}$$

も複素ベクトルの内積から導かれる。

内積については以下の記事

を参照されたい。

終わりに

今回は高校数学で習う複素数平面について少し詳しく解説してきた。複素数平面は単に複素数を平面に図示しただけにすぎないことと、複素数を複素1次ベクトルと見なすことで計算を解析的に考えることができることが分かってもらえたなら書いた甲斐がある。ここでは高校数学を学習した人に数学の面白さを知ってもらうことが目的であるためこれ以上の説明はここでは控える。そのためこの記事を読んでもっと知りたいと思ってくれた人には是非その意欲を捨てずに学習していってほしい。本ブログにもいずれ書き込むつもりではあるが待たずに勉強してくれると非常に嬉しい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました