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等加速度直線運動の公式ってなんだよ

力学

高校物理では等速直線運動の公式と等加速度直線運動の公式が与えられる。授業によってはその導出方法も紹介されるが、計算時には結局公式を振り回すだけになってしまうという。本記事では公式を振り回すだけでは解くのに苦労する問題でも、微分方程式を解くことで簡単に解けることを紹介したい。というかこちらが正道である。

等加速度直線運動の公式の出元はどこか

ニュートンは自身のプリンシピアという本において質点の運動に関する性質を以下の3つの法則を提唱した。

  • 第1法則(慣性の法則)
  • 第2法則(ニュートンの運動方程式)
  • 第3法則(作用・反作用の法則)

古典力学はこの質点に関する運動の3法則によってほぼ簡潔したとも言える。高校物理の力学の分野ではこれらの法則により導かれる古典力学だけを扱っている。

静止している質点が動き出すためには力が必要である。そこで第2法則のニュートンの運動方程式

$$\frac{d\boldsymbol{p}_{(t)}}{dt}=\boldsymbol{F}_{(t)} \tag{1}$$

を参考にすると、力 $\boldsymbol{F}$ は…、? 力 $\boldsymbol{F}$ は瞬間の運動量 $\boldsymbol{p}$ と等しくなるという? これでは分かりにくいのかもしれない。

そこで運動量 $\boldsymbol{p}$ とは質量 $m$ と速度 $\boldsymbol{v}=\frac{d\boldsymbol{r}}{dt}$ の積

$$\boldsymbol{p}:=m\boldsymbol{v}=m\left(\frac{d\boldsymbol{r}}{dt}\right) \tag{2}$$

によって定義されることから(2)式を(1)式に代入すると

$$m\left(\frac{d^2\boldsymbol{r}_{(t)}}{dt^2}\right)=\boldsymbol{F}_{(t)} \tag{3}$$

となる。 $\boldsymbol{r}$ は位置ベクトルであり、デカルト座標系では $(x,y)$ のように成分表示される。

(3)式を見れば、質量 $m$ と加速度 $\boldsymbol{a}=\left(\frac{d^2\boldsymbol{r}_{(t)}}{dt^2}\right)$ の積が力 $\boldsymbol{F}_{(t)}$ と結び付くということである。重い物体を動かすためには大きな力を要するという、直感的に飲み込みやすい方程式であろう。

それでは準備が揃ったところで等加速度直線運動の公式を解剖してみる。

まず直線運動とあることから、この運動は1次元で記述できそうである。よって運動方程式(3)を

$$m\left(\frac{d^2\boldsymbol{x}_{(t)}}{dt^2}\right)=\boldsymbol{F}_{(t)} \tag{4}$$

のように1次元 $\boldsymbol{x}$ での運動と見なす。

次に等加速度とあることから、加速度 $\boldsymbol{a}=\frac{d^2\boldsymbol{x}_{(t)}}{dt^2}=Const.$ である。このことから運動方程式(4)の右辺 $\boldsymbol{F}_{(t)}$ は $t$ に依存しない定数 $m\boldsymbol{a}$ で置ける。よって最終的に解くべき運動方程式は

$$m\left(\frac{d^2\boldsymbol{x}_{(t)}}{dt^2}\right)=m\boldsymbol{a} (=Const.) \tag{5}$$

となる。これを微分方程式と見なして $\boldsymbol{x}_{(t)}$ について解けば良い。これはもっとも簡単な2階線型微分方程式と言われている。解けば良いのだが、解いた結果を公式に使うのでは果たしてそれが物理学と言えるのだろうか。というのが私の主張である。まあ私が何でもかんでも暗記するのが嫌いだからであるからという単純な理由によるところが大きいのだが。円運動をする、単振動をする、空気抵抗を受けるとき等の物体の変位 $\boldsymbol{r}$ を求めるのには運動方程式を解く必要があり、これを解けさえいれば公式は覚える必要はないのだ。

以下の問題をちょっと解いてみてほしい。よっぽどのことが無い限りは誰でも解けるような問題となっているのだが、その解放は多岐に渡る。どの解法が正しいということはないが、解答の仕方によって力学をどれだけ知っているのか分かりやすい問題になっている。

[問題]

質量 $m$ の物体が点Aを速度 $v_0$ で右向きに通過した。点Aから右側は床から大きさ $f$ の動摩擦力が働き、やがて物体は点Aからの距離 $L$ にある点Bで静止した。

2点A,Bにおける物体の通過した時刻をそれぞれ $t_A,t_B$ としたときに以下の問いに答えよ。

(1)物体が点Aから点Bまでを移動したときに掛かる時間 $t_{AB}$ はいくらか。

(2)物体が点Aから点Bまで移動した距離 $L$ はいくらか。

[問題終わり]

この問題を高校生に出題すると、これがまた生徒の習熟度合いによって解法が異なるから面白い。等加速度直線運動の公式を振り回す者、 $v-t$ グラフを描いて面積を利用する者、微分方程式の一般解を求める者。ここでは微分方程式を上手く利用したく積分範囲を工夫した。

[解答・解説]

題意より物体には力 $\boldsymbol{F}=\boldsymbol{f}$ が働くから、解くべき運動方程式は

$$m\left(\frac{d^2\boldsymbol{r}_{(t)}}{dt^2}\right)=\boldsymbol{f} \tag{6}$$

となる。ここで物体は1次元の運動としてみなせることから、運動方程式(6)は1次元 $\boldsymbol{x}$ によって記述される。またここで右向きを $x$ 軸正の向きにとり、その基底を $\boldsymbol{e}_x$ と置くと、(6)式は

$$m\left(\frac{d^2\boldsymbol{x}_{(t)}}{dt^2}\right)=-f\boldsymbol{e}_x \tag{7}$$

と表される。しかし運動方程式(7)は1成分のみの表現であるから、扱う運動方程式は簡単のため以下

$$m\left(\frac{d^2{x}_{(t)}}{dt^2}\right)=-f \tag{8}$$

のように成分だけを取り出したものを使用する。(8)式の両辺を整理して

$$\left(\frac{d^2{x}_{(t)}}{dt^2}\right)=-\frac{f}{m} \tag{9}$$

を $t$ による微分方程式として $x$ について解けば求める $L$ が分かる。

そこで (9)式を $t$ で1回だけ積分すると

$$∫\left(\frac{d^2{x}_{(t)}}{dt^2}\right)dt=∫\left(-\frac{f}{m}\right)dt=-\frac{f}{m}∫dt \tag{10}$$

と表現できて、このまま積分を実行すると速度 $v=\frac{dx}{dt}$ についての一般解が得られる。よくある高校物理の話では求めた一般解に初期条件を代入して任意定数を定めるというものだ。しかしこの問題では初期条件 $(v_{(t_A)}=v_0,v_{(t_B)}=0)$ が与えられていて、尚且つ一般解を求める問題ではないのだから、そんな二度手間をする必要はない。

実際に計算するのなら(10)式の積分範囲を $[t:t_A→t_B]$ として((11)式)から $[v:v_{(t_A)}→v_{(t_B)}]$ (12)式の置換を施す。

$$\begin{align*}∫_{t_A}^{t_B}\left(\frac{d^2{x}_{(t)}}{dt^2}\right)dt&=-\frac{f}{m}∫_{t_A}^{t_B}dt \tag{11}\\
∴ ∫_{v_{(t_A)}}^{v_{(t_B)}}d\left(\frac{d{x}_{(t)}}{dt}\right)&=-\frac{f}{m}∫_{t_A}^{t_B}dt \tag{12}\\
∴ v_{(t_B)}-v_{(t_A)}&=-\frac{f}{m}(t_B-t_A)\end{align*}$$

しかしこれでは式を見て分かる通り求められるのは2点A,Bにおける速度と時間の関係式であって、道中で一般の速度 $v_{(t)}$ について $t$ による関数で表現していない。そのためこれでは変位を求めるためにもう一度 $t$ の関数で考えなければならない。よって実用的には $t_B$ を変数 $t$ に変えた

$$\begin{align*}∫_{t_A}^{t}\left(\frac{d^2{x}{(t)}}{dt^2}\right)dt&=-\frac{f}{m}∫_{t_A}^{t}dt \tag{13}\\
∴ ∫_{v_{(t_A)}}^{v_{(t)}}d\left(\frac{d{x}{(t)}}{dt}\right)&=-\frac{f}{m}∫_{t_A}^{t}dt \tag{14}\\
∴ v_{(t)}-v_{(t_A)}&=-\frac{f}{m}(t-t_A) \tag{15}\end{align*}$$

を求める。そして2点A,Bにおける速度と時間の関係式を求めたいのなら、これに初期条件 $(v_{(t)}=v_{(t_A)}=v_0,v_{(t_B)}=0)$ を代入するべきである。

よって(15)式から

$$∴ v_{(t_B)}-v_{(t_A)}=-\frac{f}{m}(t_B-t_A)$$

$$∴t_B-t_A=\frac{mv_0}{f} \tag{16}$$

よって(16)式は問い(1)の解答 $t_{AB}$ となる。

$$∴t_{AB}=t_B-t_A=\frac{mv_0}{f} \tag{(1)の解答}$$

さて2点A,B間の距離 $L$ とは、(15)式

$$∴ v_{(t)}-v_{(t_A)}=-\frac{f}{m}(t-t_A) \tag{15}$$

の両辺を更に積分範囲 $[t:t_A→t_B]$ の下で $t$ で積分して求めることができる。

$$∴ ∫_{t_A}^{t_B}\left(v_{(t)}-v_{(t_A)}\right)dt=∫_{t_A}^{t_B}-\frac{f}{m}(t-t_A)dt \tag{16}$$

当然これも実用的には $t_B$ を変数 $t$ に変えたもの

$$∴ ∫_{t_A}^{t}\left(v_{(t)}-v_{(t_A)}\right)dt=∫_{t_A}^{t}-\frac{f}{m}(t-t_A)dt=-\frac{f}{m}∫_{t_A}^{t}(t-t_A)dt \tag{17}$$

を積分した後に $t=t_B$ と置き直す((19)式)。勿論 $v_{(t)}$ の積分を先程と同様に積分範囲 $[t:t_A→t]$ による $t$ の積分を積分範囲 $[x:x_{(t_A)}→x_{(t)}]$ による積分に変えて((18)式)計算しても良い。

$$\begin{align*}∴ ∫_{x_{(t_A)}}^{x_{(t)}}d\left(x_{(t)}-x_{(t_A)}\right)-∫_{t_A}^t v_{(t_A)}&=-\frac{f}{m}∫_{t_A}^{t}(t-t_A)dt \tag{18}\\
∴ (x_{(t)}-x_{(t_A)})-v_{(t_A)}(t-t_A)&=-\frac{f}{2m}(t-t_A)^2dt\\
∴ x_{(t)}-x_{(t_A)}&=-\frac{f}{2m}(t-t_A)^2+v_{(t_A)}(t-t_A) \tag{19}\\
∴ x_{(t_B)}-x_{(t_A)}&=-\frac{f}{2m}(t_B-t_A)^2+v_{(t_A)}(t_B-t_A) \tag{20}\end{align*}$$

となる。これに初期条件 $(x_{(t_B)}-x_{(t_A)}=L,v_{(t_A)}=v_0)$ を代入すれば

$$∴ L=-\frac{f}{2m}(t_B-t_A)^2+v_0(t_B-t_A) \tag{21}$$

となる。よって問(1)の解答

$$∴t_{AB}=t_B-t_A=\frac{mv_0}{f} \tag{(1)の解答}$$

より求める距離 $L$ は

$$∴ L=-\frac{f}{2m}\left(\frac{mv_0}{f}\right)^2+v_0\frac{mv_0}{f}=\frac{mv_0^2}{2f} \tag{(2)の解答}$$

となる。

[解答・解説終わり]

どうだったか。多分高校物理では教えられない解答だったのではなかろうか。この方法なら運動方程式で記述されたものなら同様に解くことができる。例えば空気抵抗のある落下運動なら運動方程式は

$$∴ m\left(\frac{d^2y}{dt^2}\right)=-mg-λ\left(\frac{dy}{dt}\right)$$

となり、この微分方程式を解けば良い。これは $v=\frac{dy}{dt}$ についての1階線型非斉次微分方程式を解き、その後更に $y$ についての1階線型斉次微分方程式を解くときのような要領で解くことができる。

終わりに

本記事ではニュートンの運動方程式によって等加速度直線運動の問題を解いてみた。等加速度直線運動は運動方程式の特に $F=Const.$ の場合を指すというだけに過ぎない。そのため問題を解くためには等加速度直線運動だからといって特別に何らかの公式に頼らずとも、運動方程式を微分方程式として解くという当たり前のことをするだけで良い。わざわざ脳のリソースを割いてまで公式を丸暗記する価値があるのか再考願いたい。

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