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比の値を少し詳しく見てみる

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前書き

本記事はシリーズ『非調和比をそれっぽく解釈する』の第1部になります。

本記事では比の値をベクトルにするという新たな視点を提供します。比の値とは、$a:b=m:n$ のような比を分数で表現することで、2つの数 $a$ と $b$ の比率が分かるものです。しかしこれをベクトルに拡張すると、どのような意味を持つのでしょうか。平行な2つのベクトル $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}$ について、その比を考えてみましょう。

比の値をベクトルにしてみる

比の値とは $a:b = m:n$ のような比を

$$\begin{align*}
\dfrac{a}{b} &= \dfrac{m}{n} \\
&= m’ \end{align*}$$

のように分数で表現することである。或いは分数を払って

$$
∴ a = m’b  (a,b∈\mathbb{R}⇒m’∈\mathbb{R})
$$

とすれば2つの数 $a$ と $b$ の比率が分かる。まあこれは大丈夫だろう。

では平行な2つのベクトル $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}(成分はそれぞれa,b)$ について

$$\begin{align*}
\boldsymbol{a} &= m\boldsymbol{b}\\
または a \boldsymbol{e} &= mb \boldsymbol{e}  
\end{align*}$$

となるような比はなんだろうか。

成分同士だけを比較すると

$$ a:b = m:1 $$

だが、この式には基底 $\boldsymbol{e}$ の情報が入っていない。

そこで形式的に
$$\begin{align*} a\boldsymbol{e}:b\boldsymbol{e} &= m:1\\
\boldsymbol{a}:\boldsymbol{b} &= m:1  (m∈\mathbb{R}) \end{align*} \tag{1}$$

と書いてみよう。すると(1)の左辺はベクトル同士の比だが、右辺は実数同士の比であると解釈できる。

よって形式的ではあるもののベクトルの比の値

$$
\dfrac{\boldsymbol{a}}{\boldsymbol{b}} = m \tag{2}
$$

を求めることができた。この一連の操作が意味するところは、禁じられていたベクトル同士の割り算を(2)式のように比の値によって無理矢理に求めようというものである。しかし注意されたいのは飽くまで私が定義したいのはベクトルの比の値であって、ベクトルの割り算ではないということだ。またこの結果からベクトル同士の比の値が実数になることと、2つのベクトル $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}$ が平行であることは同等である。

次に

$$
\dfrac{\boldsymbol{a}}{\boldsymbol{b}} = \boldsymbol{m}  (\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}, \boldsymbol{m}∈\mathbb{R}^n) \tag{3}
$$

となる場合について考えよう。ここで $\boldsymbol{m}$ は $n$ 次列ベクトルとする。なお簡単のため用いるベクトル $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\boldsymbol{m}$ は全て $\mathbb{R}^n$ ベクトル空間にあるものとする。

前の考察から2つの $n$ 次ベクトル $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}$ の各成分をを $a_r,b_r (r\leq n)$ と置き

$$a_r = m_rb_r$$

のように書き表されるのなら、転置を $^*$ として

$$
\boldsymbol{a} = \boldsymbol{m}\boldsymbol{b}^* (\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\boldsymbol{m}∈\mathbb{R}^n)
$$

または対角行列 $Λ$ (対角成分は $Λ_{rr}=m_{rr}$ )を用いて、

$$ \boldsymbol{a} = Λ\boldsymbol{b} \tag{4}$$

と書き表される。

このことから比の値がベクトルになる場合には、ベクトル $\boldsymbol{a}$ は対角行列によるベクトル $\boldsymbol{b}$ の線型変換となる。また当然ながら比の値が行列となる場合には、その行列による線型変換となる。

以上の議論は実数体 $\mathbb{R}$ における議論であったが、線型変換は行列やベクトル実数体 $\mathbb{R}$ に限らず複素数体 $\mathbb{C}$ においても同様に行われる。

ちょっと休憩

次の記事では比の値が複素数の場合にどのような性質を持つのか調べていこう。

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