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極座標系でも定義通りにラプラシアンを導出しよう

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本記事では極座標系特に球座標系におけるナブラ $\nabla$ を紹介しています。そこで折角球座標系における $\nabla$ を基底を用いて表現しているのだから、そのまま球座標系におけるラプラシアン $\Delta:=\nabla\cdot\nabla$ を導出していこうと思います。他のサイトでは偏微分を挿入しているのですが、わざわざそんなことしなくても定義通り内積(のような形)を取るという至って自然な発想で行かないのが不思議でなりません。

前回

極座標系における微分作用素

極座標系におけるナブラ $\nabla$

球座標系における各基底 $\langle\boldsymbol{e}_{r_{(θ,φ)}},\boldsymbol{e}_{θ_{(θ,φ)}},\boldsymbol{e}_{φ_{(φ)}}\rangle$ は

の(22)式

$$\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{r_{(θ,φ)}}\\
\boldsymbol{e}_{θ_{(θ,φ)}}\\
\boldsymbol{e}_{φ_{(φ)}}
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix} \sinθ\cosφ & \sinθ\sinφ & \cosθ\\
\cosθ\cosφ & \cosθ\sinφ & -\sinθ\\
-\sinφ & \cosφ & 0
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{x}\\
\boldsymbol{e}_{y}\\
\boldsymbol{e}_{z}
\end{pmatrix} \tag{22}$$

で求めている。分からない読者は参照されたい。この基底を用いて球座標系におけるナブラ $\nabla$ を表現しよう。

よく各基底を見てみると、以下の関係式が導かれることに気付くことだろう。

$$\begin{cases}
\dfrac{∂\boldsymbol{r}}{∂r}=\boldsymbol{e}_r\\
\dfrac{∂\boldsymbol{r}}{∂θ}=r\boldsymbol{e}_θ\\
\dfrac{∂\boldsymbol{r}}{∂φ}=r\sinθ\boldsymbol{e}_φ
\end{cases}$$

この関係式を用いることで、球座標系における $\nabla$ は

$$\begin{align*}
\nabla&=\boldsymbol{e}_x\frac{∂}{∂x}+\boldsymbol{e}_y\frac{∂}{∂y}+\boldsymbol{e}_z\frac{∂}{∂z}\\
&=\frac{∂}{∂r}\frac{∂r}{∂\boldsymbol{r}}+\frac{∂}{∂θ}\frac{∂θ}{∂\boldsymbol{r}}+\frac{∂}{∂φ}\frac{∂φ}{∂\boldsymbol{r}}\\
&=\boldsymbol{e}_r\frac{∂}{∂r}+\boldsymbol{e}_θ\frac{∂}{r∂θ}+\boldsymbol{e}_φ\frac{∂}{r\sinθ∂φ}
\end{align*}$$

となる。一応円座標系の場合には変数 $φ$ を無視することで

$$\nabla=\boldsymbol{e}_r\frac{∂}{∂r}+\boldsymbol{e}_θ\frac{∂}{r∂θ}$$

となり、円筒座標系の場合には底面を $xy$ 平面上の円として、高さを $z$ とすれば良いから

$$\nabla=\boldsymbol{e}_r\frac{∂}{∂r}+\boldsymbol{e}_θ\frac{∂}{r∂θ}+\boldsymbol{e}_z\frac{∂}{∂z}$$

となる。

極座標系におけるラプラシアン $\Delta$

そこで球座標系のラプラシアン $\Delta:=\nabla\cdot\nabla$ を求めたいのだが、なぜだか単に内積(のような計算)により相互的に演算をして求めているサイトが見当たらなくて不思議に思う。よくある手法が変数の変換をして偏微分をするというものだが、う~む。わざわざ球座標系の基底で表したのだから、そこから内積をするという至ってシンプルな発想が思いつくのは自然の考えだと思うのだが。

確かに本当に何も考えずに「正規直交基底のベクトル $\nabla$ 同士の内積を取るため $\Delta=|\nabla|^2$ とする」のは愚行である。それは $\nabla$ による演算が相互的に作用していることを理解できていない。つまり $\Delta$ を本質的には等しい2つのナブラ $\nabla_1,\nabla_2$ による内積 $\nabla_1\cdot\nabla_2$ と見なすと、これは $\nabla_1$ の演算をベクトル $\nabla_2$ に作用させているのと同時に、 $\nabla_2$ の演算をベクトル $\nabla_1$ に作用させているものと考えることができる。文で書くよりも実際に計算を見れば何をしているのか一目瞭然なので、以下実際に内積(のような計算)によって極座標系におけるラプラシアン $\Delta$ を導いた。以下どうにか混乱を防ぐために各ナブラ $\nabla_1,\nabla_2$ による演算について添え字 $_1,_2$を用いることにした。勿論添え字を書かなくても良い。

$$\begin{align*}
\Delta:=\nabla_1\cdot\nabla_2&={\boldsymbol{e}_r}_1\frac{∂}{∂r_1}\cdot\left({\boldsymbol{e}_r}_2\frac{∂}{∂r_2}+{\boldsymbol{e}_θ}_2\frac{∂}{r_2∂θ_2}+{\boldsymbol{e}_φ}_2\frac{∂}{r_2\sinθ_2∂φ_2}\right)\\
&+{\boldsymbol{e}_θ}_1\frac{∂}{r_1∂θ_1}\cdot\left({\boldsymbol{e}_r}_2\frac{∂}{∂r_2}+{\boldsymbol{e}_θ}_2\frac{∂}{r_2∂θ_2}+{\boldsymbol{e}_φ}_2\frac{∂}{r_2\sinθ_2∂φ_2}\right)\\
&+{\boldsymbol{e}_φ}_1\frac{∂}{r_1\sinθ_1∂φ_1}\cdot\left({\boldsymbol{e}_r}_2\frac{∂}{∂r_2}+{\boldsymbol{e}_θ}_2\frac{∂}{r_2∂θ_2}+{\boldsymbol{e}_φ}_2\frac{∂}{r_2\sinθ_2∂φ_2}\right)\\
&=\left\{{\boldsymbol{e}_r}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_r}_1}{∂r_2}\right)+{\boldsymbol{e}_θ}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_r}_1}{r_2∂θ_2}\right)+{\boldsymbol{e}_φ}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_r}_1}{r_2\sinθ_2∂φ_2}\right)\right\}\frac{∂}{∂r_1}\\
&+\left\{{\boldsymbol{e}_r}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_θ}_1}{∂r_2}\right)+{\boldsymbol{e}_θ}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_θ}_1}{r_2∂θ_2}\right)+{\boldsymbol{e}_φ}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_θ}_1}{r_2\sinθ_2∂φ_2}\right)\right\}\frac{∂}{r_1∂θ_1}\\
&+\left\{{\boldsymbol{e}_r}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_φ}_1}{∂r_2}\right)+{\boldsymbol{e}_θ}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_φ}_1}{r_2∂θ_2}\right)+{\boldsymbol{e}_φ}_2\cdot\left(\frac{{∂\boldsymbol{e}_φ}_1}{r_2\sinθ_2∂φ_2}\right)\right\}\frac{∂}{r_1\sinθ_1∂φ_1}\\
&=\frac{∂^2}{∂r^2}+\frac{∂^2}{r^2∂θ^2}+\frac{∂^2}{r^2\sinθ∂φ}\\
&+\left\{\frac{1}{r}+\frac{\sinθ}{r\sinθ}\right\}\frac{∂}{∂r}+\left\{0+\frac{\cosθ}{r\sinθ}\right\}\frac{∂}{r∂θ}+\left\{0+0\right\}\frac{∂}{r\sinθ∂φ}\\
&=\frac{∂^2}{∂r^2}+\frac{2∂}{r∂r}+\frac{∂^2}{r^2∂θ^2}+\frac{∂}{r^2\tanθ∂θ}+\frac{∂^2}{r^2\sin^2θ∂φ^2}\\
&=\frac{1}{r^2}\frac{∂}{∂r}\left(r^2\frac{∂}{∂r}\right)+\frac{1}{r^2\sinθ}\frac{∂}{∂θ}\left(\sinθ\frac{∂}{∂θ}\right)+\frac{1}{r^2\sin^2θ}\frac{∂^2}{∂φ^2}
\end{align*}$$

となる。計算過程で注意したいのが、相互演算させた右辺第2式から第3式への変形についてである。一見すると各基底$_1$を演算子$_2$で偏微分しているように見えるが、基底の偏微分と同じ偏微分による相互演算項(第2式で言うところの対角な項)は同一の基底において同一の演算を施しているので、これらの項は各変数における演算子の自積項となる。これにより第3式の

$$\frac{∂^2}{∂r^2}+\frac{∂^2}{r^2∂θ^2}+\frac{∂^2}{r^2\sin^2θ∂φ^2}$$

が導かれるのである。

円座標系、円筒座標系も同様に求められるので各自読者に任せる。

最後に

本記事では球座標系における $\Delta$ を内積(のような計算)から自然に導出した。他のサイトではどうも見当たらないというか極座標系における $\Delta$ の導出自体記事が非常に少なく。あっても本当にどれも似通った導出方法で辟易する人も多いことだろう。

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