この記事は4部構成のシリーズ「回転に関する物理量」の第3部になっています。第3部では主に慣性モーメントとそのテンソルを解説していきます。工学、建築学系では計算を重視するあまり、なんかよく分からない二乗の公式を使わされるみたいなのです。定義は二の次という。何やっているのかよく分からない人には是非とも読んでいってもらいたいものですね。
式番号は前回からの引き継ぎ。
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慣性モーメントと慣性モーメントテンソル
角運動量は(13)式から
$$\boldsymbol{L}=m(r^2\boldsymbol{\omega}-(\boldsymbol{r}\cdot\boldsymbol{\omega})\boldsymbol{r}) \tag{13}$$
であるが、取り敢えずこれを各成分毎に見てみよう。
$$\begin{cases}
L_x=mr^2ω_x-m(xω_x+yω_y+zω_z)x\\
L_y=mr^2ω_y-m(xω_x+yω_y+zω_z)y\\
L_z=mr^2ω_z-m(xω_x+yω_y+zω_z)z
\end{cases}$$
となる。これを行列を用いて
$$\begin{pmatrix}
L_x\\
L_y\\
L_z
\end{pmatrix}
=\left\{\begin{pmatrix}
mr^2 & 0 & 0\\
0 & mr^2 & 0\\
0 & 0 & mr^2
\end{pmatrix}
-\begin{pmatrix}
mx^2 & myx & mzx\\
mxy & my^2 & mzy\\
mxz & myz & mz^2
\end{pmatrix}\right\}
\begin{pmatrix}
ω_x\\
ω_y\\
ω_z
\end{pmatrix}$$
$$∴ \begin{pmatrix}
L_x\\
L_y\\
L_z
\end{pmatrix}
=m\begin{pmatrix}
y^2+z^2 & -yx & -zx\\
-xy & z^2+x^2 & -zy\\
-xz & -yz & x^2+y^2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
ω_x\\
ω_y\\
ω_z
\end{pmatrix} \tag{16}$$
となる。よって(16)式を(14)式
$$\boldsymbol{L}=\boldsymbol{I}\boldsymbol{\omega} \tag{14}$$
のように角運動量 $\boldsymbol{L}$ を $\boldsymbol{\omega}$ の $\boldsymbol{I}$ による線型変換によって表すと、
$$\boldsymbol{I}=
m\begin{pmatrix}
y^2+z^2 & -yx & -zx\\
-xy & z^2+x^2 & -zy\\
-xz & -yz & x^2+y^2
\end{pmatrix} \tag{17}$$
となる。見ればわかるが $\boldsymbol{I}$ は $[3×3]$ の行列で表され、各要素 $I_{jk}$ は
$$I_{jk}=m(r^2 δ_{jk}-r_jr_k) \tag{18}$$
と表される。これは2階のテンソルである。ただし $δ_{jk}$ はクロネッカーのデルタとする。一般に $i=j$ のときの要素を慣性主軸と言い、 $i≠j$ のときの要素を慣性乗積と言う。計算すれば分かるが、物理的に題意の図形が回転軸からその重心を通る直線について対称であるのなら軸はブレない。つまり慣性乗積で書かれる要素は $0$ となる。
以上から角運動量 $\boldsymbol{L}$ について、回転軸に関する量 $\boldsymbol{\omega}$ と回転のしにくさを示す量 $\boldsymbol{I}$ を区別して考えることができるのだ。
今は質点について考えているが、一般に $i$ 個の質点の集合で近似する場合には、(18)式は
$$I_{jk}=\sum_im_i(r_i^2 δ_{jk}-r_{i,j}r_{i,k}) \tag{19}$$
となる。更に剛体の場合にはこれを連続体と見なして
$$I_{jk}=∫_Vρ(\boldsymbol{r})(r^2 δ_{jk}-r_jr_k)\hspace{1mm}d^3r \tag{20}$$
となる。 $ρ(\boldsymbol{r})$ は質量密度 $ρ(\boldsymbol{r})=\dfrac{dM}{d^3r}$ とする。
さて少し遡って(17)式
$$\boldsymbol{I}=
m\begin{pmatrix}
y^2+z^2 & -yx & -zx\\
-xy & z^2+x^2 & -zy\\
-xz & -yz & x^2+y^2
\end{pmatrix} \tag{17}$$
は対称行列であるから、慣性モーメントテンソル $\boldsymbol{I}$ は何かユニタリー行列 $\boldsymbol{U}$ (物理的には実対称行列なので直交行列でも良い)によって
$$\boldsymbol{U}\boldsymbol{I}\boldsymbol{U}^†=\boldsymbol{I}’$$
のように対角化することができる。ただしユニタリー行列の性質 $\boldsymbol{U}^†:=^t\overline{\boldsymbol{U}}=\boldsymbol{U}^{-1}$ を用いた。
このことから(14)式より
$$\begin{align*}\boldsymbol{L} &= \boldsymbol{I}\boldsymbol{\omega}\\
∴ \boldsymbol{U}\boldsymbol{L} &= \boldsymbol{U}\boldsymbol{I}\boldsymbol{U}^†\boldsymbol{U}\boldsymbol{\omega} (∵ \boldsymbol{U}^†\boldsymbol{U}=\boldsymbol{E})\\
∴ \boldsymbol{U}\boldsymbol{L} &= \boldsymbol{I}’\boldsymbol{U}\boldsymbol{\omega}\\
∴ \boldsymbol{L}’ &= \boldsymbol{I}’\boldsymbol{\omega}’
\end{align*}\tag{21}$$
のように対角化された慣性モーメントテンソル $\boldsymbol{I}’$ によって新たに角速度 $\boldsymbol{\omega}’$ から角運動量 $\boldsymbol{L}’$ への線型変換と見なすことができる。このことは物理的に解釈するのなら、どんな形の物体であっても回転するときにブレないような座標系を設定することができるということである。
例えば先に上げた $z$ 軸を回転軸とする質点であれば、
$$\boldsymbol{\omega}=ω\boldsymbol{e}_z z=0$$
であるから、(16)式は
$$∴ \begin{pmatrix}
L_x\\
L_y\\
L_z
\end{pmatrix}
=m\begin{pmatrix}
y^2 & -yx & 0\\
-xy & x^2 & 0\\
0 & 0 & x^2+y^2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0\\
0\\
ω_z
\end{pmatrix} \tag{16}$$
となり、角運動量 $\boldsymbol{L}$ は
$$\boldsymbol{L}=L_z\boldsymbol{e}=m(x^2+y^2)ω_z\boldsymbol{e}_z$$
となる。これは慣性モーメントテンソル $\boldsymbol{I}$ が0階のテンソル(つまりスカラー)となっていることから、通常この形では $I=m(x^2+y^2)$ は慣性モーメントと呼ばれる。
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