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向心力の働く運動を考えるために

力学

初めに

本記事は4部構成のシリーズ「極座標系でも運動方程式を解きたい」の第1部になっています。このシリーズでは向心力の働く運動について紹介していきます。第1部は高校で勉強する等速円運動を極座標系を用いて調べていきます。第1部はこのシリーズの動機付けに当たる位置付けとなり、ここから惑星の軌道や単振り子の厳密解等を求めていきます。一応高校生向けとしていますが、理解するには線型代数学や微分積分学の知識が必要になってくるので、高校物理を一通り勉強した人か大学1年生向けとなります。

等速円運動を掌握せよ

高校物理では無視される前提知識

円座標系の座標表示? と思った人はこちら

円座標系における物体の位置ベクトル $\boldsymbol{r}$ は

$$\boldsymbol{r}=r \boldsymbol{e}_{r(θ)} \tag{1}$$

となる。よって円座標系において質量 $m$ の物体の運動方程式は

$$m\left(\frac{d^2\boldsymbol{r}_{(r,θ)}}{dt^2}\right)=\boldsymbol{F}$$

$$m\left(\frac{d^2}{dt^2}\right)r\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}=F_r\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}+F_θ\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}} \tag{2}$$

のように表される。右辺は物体に働く力 $\boldsymbol{F}$ を円座標系の各成分 $r,θ$ 方向に分解している。(2)式の左辺を微分を実行することで加速度 $\boldsymbol{a}=\dfrac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2}$ についての方程式が求まり、これを $t$ に関する微分方程式として $r,θ$ について解くことで求める $r,θ$ が得られる。

しかしここで曲者なのが

$$\left(\frac{d^2}{dt^2}\right)(r\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}) \tag{3}$$

である。デカルト座標系のように $t$ で微分するには少し考える必要があるのだ。実はデカルト座標系における

$$(x,y)=x\boldsymbol{e}_x+y\boldsymbol{e}_y$$

の $t$ による微分が

$$\left(\frac{d}{dt}\right)(x\boldsymbol{e}_x+y\boldsymbol{e}_y)=\frac{d}{dt}(x\boldsymbol{e}_x)+\frac{d}{dt}(y\boldsymbol{e}_y)$$

を計算して、

$$\left(\frac{dx}{dt}\right)\boldsymbol{e}_x+\left(\frac{dy}{dt}\right)\boldsymbol{e}_y$$

となるのは、デカルト座標系の基底 $\langle\boldsymbol{e}_x,\boldsymbol{e}_y\rangle$ が $t$ に依存しないからである。しかし円座標系の基底 $\langle\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}},\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}\rangle$ は $t$ に依存するので(3)式は

$$(3)=\left(\frac{d}{dt}\right)\left(\left(\frac{dr}{dt}\right)\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}+r\left(\frac{d\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}}{dt}\right)\right) \tag{4}$$

となる。そこで基底 $\langle\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}},\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}\rangle$ の $t$ による微分をするわけだが、直接的には基底が $t$ にどれだけ依存しているのか分からない。そこで一旦 $θ$ を挟んで合成関数の微分をするというよく知られている方法を取る。

基底 $\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}$ を $t$ で微分するために $θ$ を挟むと

$$\left(\frac{d}{dt}\right)\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}=\left(\frac{dθ}{dt}\right)\left(\frac{∂\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}}{∂θ}\right)=\left(\frac{dθ}{dt}\right)\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}$$

となる。ここで

$$\frac{∂\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}}{∂θ}=\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}} \frac{∂\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}}{∂θ}=-\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}$$

であることに注意されたい。以降文字の上に着くドット $\dot{}$ (ニュートン記法)は $\frac{d}{dx}$ (ライプニッツ記法)と混乱を避けるために使用する。

よって(4)式の計算はニュートン記法を用いて

$$\begin{align*}
(4)&=\left(\frac{d}{dt}\right)(\dot{r}\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}+r\dot{\boldsymbol{e}}_{r_{(θ)}})\\
&=\left(\frac{d}{dt}\right)(\dot{r}\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}+r\dot{θ}\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}})
\end{align*} \tag{5}$$

となる。よって速度 $\boldsymbol{v}$ の円座標系表示

$$\boldsymbol{v}=\dot{r}\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}+r\dot{θ}\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}$$

が得られた。加速度 $\boldsymbol{a}$ はもう一度 $t$ で微分して、

$$\begin{align*}
(5)=\left(\frac{d}{dt}\right)(\dot{r}\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}+r\dot{θ}\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}})&=\ddot{r}\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}+2\dot{r}\dot{θ}\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}+r\ddot{θ}\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}-r\dot{θ}^2\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}\\
&=
\begin{pmatrix}
\ddot{r} -r\dot{θ}^2 & 2\dot{r}\dot{θ}+r\ddot{θ}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}\\
\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}
\end{pmatrix}
\end{align*} \tag{6}$$

となる。よって円座標系の運動方程式(2)式は

$$m
\begin{pmatrix}
\ddot{r} -r\dot{θ}^2 & 2\dot{r}\dot{θ}+r\ddot{θ}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}\\
\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
F_r & F_θ
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}\\
\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}
\end{pmatrix} \tag{7}$$

となる。しかしこのままでは微分方程式を解くのに苦労するので、よく問題などでは $θ≈0$ や $\dot{θ}=0$ という条件を設定し解きやすく近似される。

円運動のときには制約条件 $x^2+y^2=r^2=Const.$ が課される。このとき運動方程式(7)式は

$$m
\begin{pmatrix}
-r\dot{θ}^2 & r\ddot{θ}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}\\
\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
F_r & F_θ
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}\\
\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}
\end{pmatrix} \tag{8}$$

等速円運動の公式と言われているやつ

等速円運動の場合には円運動の制約条件 $r^2=Const.$ に加えて等速という条件が課される。

ここで瞬間の速さ $v$ とは距離 $s$ を用いて $v=\dfrac{ds}{dt}$ と表される。よって距離 $s$ を求めるのなら両辺を積分してやれば良い。

ここでは円運動をしているので $s=r\displaystyle∫_0^θ dθ$ と表される。例えば物体が半径 $r$ の円を1周するときの平均の速さと言えば、 $θ=2π$ と置いて $v=\dfrac{2πr}{T} (Tは周期)$ となる。よって円運動における瞬間の速さ $v$ は

$$v=\frac{d}{dt}\left(r∫_0^θ dθ\right)=r\frac{d}{dt}∫_0^θ dθ=r\dot{θ}$$

となる。途中の微分で $r$ を外に出したのは円運動の制約条件 $r^2=Const.$ による。

このことから等速円運動という制約条件は

$$v=r\dot{θ}=Const.⇔r,\dot{θ}=Const.$$

となる。

よって等速円運動のときの運動方程式は(8)式より

$$m
\begin{pmatrix}
-r\dot{θ}^2 & 0
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}\\
\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
F_r & F_θ
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}\\
\boldsymbol{e}_{θ_{(θ)}}
\end{pmatrix} \tag{9}$$

となり、半径方向 $\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}$ だけ考慮すれば良いものになる。つまり等速円運動であるためには向心力のみしか働いていなければならない。左辺にマイナスが付いているのは向心力が半径方向 $\boldsymbol{e}_{r_{(θ)}}$ 逆向きに働くからである。ただし単純に一般の円座標系の場合の運動方程式(7)式においては後述で明らかになるが、向心力だけが働いている場合には惑星の軌道となる。つまり等速円運動になるのは、物体に向心力のみが働いていて、かつ円運動 $r^2=Const.$ のときのみである。

一応(9)式から $a=r\dot{θ}^2=\dfrac{v^2}{r}$ であることがわかる。これが等速円運動における加速度の公式らしい。また(9)式から向心力の大きさは $|\boldsymbol{F}|=F_r=mr\dot{θ}^2$ となる。

ちょっと休憩

本記事では等速円運動を運動方程式から導出してみた。そのときに高校生がよく無視しやすいような公式の条件等一から解説している。しかし理解するには線型代数学や微分積分学の知識が必要になってくるので、高校生にはオーバーワークなのかもしれない。

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